命の最前線で最大限のケアを。ふたば地域の救急医療を支える看護技師の役割
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福島県ふたば医療センター附属病院
伊東 大喜さん
Daiki Ito
Profile
高校卒業後、臨床工学技士の免許を取得。その後、看護学校に進学し看護師に。2019年に福島県ふたば医療センター附属病院へ入職。病棟業務・外来業務などを経験し、救急看護に従事。多目的ヘリスタッフやDMAT隊員としても活躍。
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東日本大震災を経験し、医療の在り方が大きく問い直されたふたば地域。
その最前線で、救急医療を支えているのが、福島県ふたば医療センター附属病院の看護技師・伊東大喜さんです。
救急外来、災害医療、多目的医療用ヘリによる広域搬送など、多岐にわたる現場を経験してきた伊東さんに、救急看護を志した原点と、地域医療にかける思いを聞きました。 -
救急看護を志した原点と、ふたば地域への思い
伊東さんが医療の道を志した背景には、「人を助けたい」という思いと、東日本大震災を経験したことがありました。
高校卒業後、一度は自衛隊への進路も考えたといいますが、小学校時代のサッカー指導者が腎疾患を患い、人工透析を受けていたことをきっかけに、医療職に関心を持つようになったと語ります。当初は臨床工学技師として医療機器を扱っていましたが、「患者さんと直接関わる時間をもっと持ちたい」という思いから、改めて看護師資格を取得しました。
その後、東日本大震災を経て、救急看護や災害看護への関心が強まり、病棟勤務から救急外来への異動を自ら希望したといいます。福島県ふたば医療センター附属病院が担うのは二次救急医療です。高度な専門治療が必要な場合には、他医療機関への転院が必要となりますが、その際、伊東さんは救急車や多目的医療用ヘリに同乗し、安全な搬送を支えています。
「ヘリ搬送によって搬送時間を短縮できることは、患者さんの負担軽減につながります。また、地域の救急隊が搬送に出ずに済むことで、双葉地域の救急体制を守ることにもつながっていると感じています」。 -
ふたば地域の救急医療体制と、日々の現場
救急外来では、ウォークインで来院する患者や救急車搬送の患者など、さまざまな状況に即座に対応する必要があります。
伊東さんが特に意識しているのは、初期対応での観察です。第一印象やABCD評価、頭部から足先までの全身観察を行い、解剖学的な異常がないかを丁寧に確認しています。双葉地域では、帰還住民に加え、原発関連作業員や復興事業に従事する人々も多く暮らしています。
病院が24時間稼働していることで、「夜に症状が出ても我慢せず受診できるようになった」という声を患者から聞くこともあり、地域にとっての安心につながっていると実感しているといいます。また、院外では出前講座を通じて、熱中症対策やヒートショック予防、蜂刺され等の対応、感染症予防などについて地域住民に伝える活動も行っています。
「救急は、起きてから対応するだけでなく、起こさないための関わりも大切だと感じています」。 -
救急看護の難しさと、その先にあるやりがい
救急看護の難しさとして、伊東さんが挙げるのが電話による受診相談です。
患者の姿を直接見ることができない中でトリアージを行うため、情報の聞き取りと判断には常に緊張感が伴います。また、過小評価を避けるため、オーバートリアージを許容しながら判断する難しさもあるといいます。精神的な負担を感じる場面としては、心肺停止の患者を救命できなかったケースが心に残ると語ります。
「どうすれば助けられたのかを考えることは多いです」。一方で、やりがいを感じる瞬間は、「ありがとう」「良くなった」と患者が笑顔で帰っていく時だと話します。
チーム医療の中では、コミュニケーションの重要性を強く意識しており、口頭指示が多い救急現場だからこそ、復唱や確認を徹底し、医療事故を防ぐ姿勢を大切にしています。また、高齢夫婦や独居の患者が多い地域特性を踏まえ、治療後の生活を見据えた看護の必要性も感じています。
病院での治療を終えた後、自宅で安心して生活できるよう、在宅環境の調整やリハビリテーションにつなげる視点を持って関わっています。 -
ふたば地域の未来を支えるために
今後の課題として伊東さんが挙げるのは、救急外来スタッフの育成と、トリアージ・アセスメント能力の向上です。
医師や看護師が不足する中、福島県立医科大学などからの医師派遣に支えられている現状もあり、体制強化の必要性を感じているといいます。また、福島県ふたば医療センター附属病院は、災害や原子力事故への対応が求められる医療機関でもあります。
伊東さん自身、DMAT資格を取得しており、今後は原子力災害研修や災害看護の学びをさらに深めていきたいと語ります。若手看護師や学生に向けては、「救急看護、病棟看護、災害医療、多目的医療用ヘリによる看護など、さまざまな経験ができる環境がここにはあります」とメッセージを送ります。
今後も、救急看護だけでなく、幅広い領域で学びを重ねながら、地域医療を支え続けていきたいと考えています。