福島県公式看護職ポータルサイト福島県看護職ナビ

instagram
検索
INTERVIEW

看護師インタビュー

福島県看護職ナビ|福島県立宮下病院 主任看護技師 遠藤 千春さん/看護技師 芳賀 翔真さん

94

福島県立宮下病院

遠藤 千春さん

Chiharu Endo

芳賀 翔真さん

Shoma Haga

Profile

主任看護技師 遠藤 千春さん
県内の看護師養成学校卒業後は救命救急センターに約7年間勤務。急性期医療の現場で経験を積んだのち、地域医療への関心から奥会津へ。2024年「摂食嚥下障害看護認定看護師」資格を取得。現在は認定看護師として専門性を活かしながら、へき地医療の充実と地域高齢者の生活を支える看護に取り組んでいる。

看護技師 芳賀 翔真さん
2024年に県外の大学を卒業後、福島県立宮下病院へ入職。高齢化率が全国でも高い奥会津地域の医療を支える若手看護師として業務に携わっている。患者や家族、病院内外の関係者との日々の関わりから学びを積み重ね、地域の健康を支える力になりたいと考えながら現場に向き合う。

  • 地域医療のリアル。三島町で「生きる」を支える看護

    三島町は人口約1,300人、高齢化率約55%、只見川沿いにある山々に囲まれ、冬は積雪が2メートルを超えることもある美しい風景の町です。そんな地域で住民の暮らしと健康を支えているのが、三島町にある福島県立宮下病院です。今回は、地域住民に密着した看護を提供する2人の看護師に、三島町で働くことになった経緯、へき地だからこそ直面する看護への思いを伺いました。

  • 原点にある思いと、三島町を選んだ理由

    福島県で育ち、「生まれた地域に貢献したい」という思いから福島県職員採用試験を受けた芳賀さん。三島町は自然豊かな環境の一方で、電車が数時間に1本、診療圏(三島町、金山町、柳津町、昭和村)の高齢化率は6割前後と、厳しい生活環境があることを肌で感じたと語ります。「ここに暮らす人たちは、どんな毎日を送っているんだろう」と興味を持ったことが、地域への理解を深めるきっかけになりました。

    一方、急性期医療に携わっていた遠藤さんは、ICUやHCUでは患者と十分にコミュニケーションが取れないもどかしさを抱えていました。看護学生の頃、一人の患者と深く関わった経験が看護の原点として心に残り、「もう一度その看護を取り戻したい」と三島町を選んだと話します。二人の言葉には、「患者と向き合う看護を大切にしたい」という共通した思いがにじんでいました。

  • 高齢化地域で見えてくる在宅支援と看取りの課題

    地域には老老世帯や独居高齢者が多く、通院すら困難な住民が少なくありません。芳賀さんは「家族を越えて地域住民同士が支えあっている」と話し、近隣住民と共に来院する場面もあるといいます。令和6年度からは、宮下病院から約300m離れた場所にあった奥会津在宅医療センターが宮下病院へ移管し、訪問看護との連携が強化。必要な時に必要なケアを届けるため、在宅移行支援、退院支援や退院調整を行っています。

    印象的なケースとして芳賀さんが挙げたのは、肺炎で入院した高齢患者さんのエピソード。嚥下(えんげ)訓練メニューを整えながら食事を支えようとしたものの、病状は看取りのフェーズへ。家族は「在宅で最期を迎えさせたい」と望んでいましたが、介護者の確保や必要なサービスの選定など課題は多く、多職種で何度も話し合いながら在宅移行を実現しました。「ご自宅で、穏やかな表情で食事をしている写真を見せてもらった時、胸が熱くなりました」と振り返ります。

    遠藤さんは、地域特性を踏まえた看護の難しさを語ります。宮下病院の診療圏は、福島県内でもとりわけ高齢化率が高く、入院患者の平均年齢は85歳以上。90歳以上の方も半数近くを占めます。「誤嚥(ごえん)性肺炎や脱水、尿路感染などを繰り返す方が非常に多く、退院後の生活を見据えた支援が欠かせません」。摂食嚥下(えんげ)障害看護認定看護師として、食事・嚥下(えんげ)に関する支援は地域医療の大きな柱だといいます。

    また、在宅への移行を検討する際、ご本人が必要性を感じていなかったり、ご家族が現実を受け止めきれていないケースも多く、「その人らしく暮らすための支援を限られた入院期間の中で組み立てていくことの難しさ」を強調していました。

  • 患者の言葉と表情を見逃さない、地域で働く看護職

    病院職員の人数は多くないものの、「患者一人ひとりとじっくり関われるのが、この病院ならではの魅力」と芳賀さんは話します。カルテだけでは把握できない変化を見つけるため、日々の観察や対話を大切にし、「潜在化しているニーズに気づける看護師でいたい」と語りました。また、若手として技術や知識に不安を抱える時も、先輩たちに相談しながら学び続けていると話します。

    遠藤さんは、健康教室や施設訪問でのエピソードを通して「若い存在そのものが地域の高齢者に元気を届けている」と芳賀さんの貢献を語ります。患者の表情が変わり、「若い人と話すのがうれしい」という声を聞くと、自身も温かい気持ちになるといいます。また、多職種との連携で大切にしているのは“実績と信用”。「根拠のない意見は通りません。実績と誠意をもって伝えることで初めて信頼が生まれる」と語り、その姿勢は看護師としての信念そのものでした。

    さらに、地域の“食べる力”を支えるために、病院を越えて行政や福祉が集う栄養サポートチームをつくりたいと構想中。「規模が小さい地域だからこそ実現できることがある」と、すでに院長や管理栄養士と動き始めています。

  • 未来へつなぐ地域医療。三島町で磨かれる看護の力

    へき地で働く看護師には、幅広い知識が求められる一方で新しい情報に触れにくい、技術を経験する機会が少ないといった不安がつきまといます。芳賀さんも「自分は成長できているのか」と悩む日もあったと語ります。しかし、人生の大先輩たちと深く関わる中で多くの学びがあり、「限られた医療資源の中で地域を支える病院があることを知ってほしい」と話しました。

    遠藤さんは、若手看護師のリアリティショックに寄り添いつつ、「目的と目標を見失わなければ、どこにいても成長できる」と強調します。派手な医療処置が少なくても、人生の最終段階に深く寄り添う看護は尊いものだと伝え、「三島町での看護に関心のある方を心からお待ちしています」とメッセージを寄せました。

    インタビュー動画はこちらから