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INTERVIEW

看護師インタビュー

「あなたにはできるよ」 親になることに迷うすべての人に寄り添い続ける助産師の歩み

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かしわ助産院 院長(助産師)

佐藤富美江さん

Fumie Sato

Profile

郡山市出身。高校を卒業後、県内の看護学校を経て、福島県立総合衛生学院助産学科で助産師資格を取得。県内の複数の病院などで勤務し、周産期から心のケアまで多様な医療現場を経験。2014年に退職後、翌2015年に「かしわ助産院」を開業。以降、妊娠・出産・産後に寄り添う地域密着のケアを実践し続けている。2023年には「開業助産師ラダー1」の認定を受けた。また、アドバンス助産師資格も取得。
「その人の持つ力を信じて寄り添うこと」を信条に、虐待や育児不安など、様々な問題を抱える母親へのサポートにも注力。母子それぞれの心に寄り添う、地域の“かかりつけ助産師”として活動している。

  • 福島県西郷村にある「かしわ助産院」。
    院長を務める佐藤富美江さんは、長年にわたり地域の妊産婦や子育て家庭に寄り添ってきたベテランの助産師です。
    出産前後のケアだけでなく、妊娠にまつわる不安や葛藤、出産後の育児や家族関係の悩みにも耳を傾け、支え続けてきました。
    命のはじまりと暮らしのつながりを見つめ続けてきた佐藤さんの言葉には、支援の原点とも言えるあたたかさと覚悟がにじんでいます。

  • 助産師として、地域の中で命と向き合う日々

    「妊娠や出産って、必ずしも明るく前向きなことばかりではないんです」。
    佐藤さんはそう語ります。その背景には、医療的なリスクだけでなく、経済的な不安、家庭内の孤立、パートナーとの関係性の問題など、さまざまな事情を抱えた妊産婦たちの姿があります。
    「例えば、妊娠したけれど育てる自信がない、家族に反対されている、頼れる人が誰もいない。そういう方は、そもそも“妊娠した”という事実すら誰にも言えず、孤立してしまうこともあるんです」。
    そんな状況で最初に相談できる場所でありたい。佐藤さんは、助産院が果たすべき役割をそう話します。

  • 「親になるのがこわい」…虐待の記憶に向き合った母の物語

    かしわ助産院には、かつて虐待を受けて育った女性や、愛情を知らずに大人になった方たちが「親になること」に不安を抱えて訪れることがあります。
    「自分がされてきたことを、子どもにしてしまうのではないか」「親に愛された記憶がないのに、自分がどうやって子どもを愛せばいいかわからない」そんな切実な言葉に、佐藤さんは一度たりとも否定せず、静かに耳を傾け続けてきました。

    「あなたなら、きっと大丈夫。ちゃんと愛せるようになるから」何度でもそう声をかけて支えていく中で、ある母親は無事に出産を迎え、懸命に子どもを育てていきました。そして数年後、その女性から届いた一通の手紙には、こんな言葉が綴られていたといいます。

    「ある日、大きくなった子どもが“お母さんみたいになりたい”って言ってくれたんです。涙が止まりませんでした。先生が信じてくれたから、私は親になることができました」
    「私の方こそ、あの言葉に救われました」と佐藤さん。信じる力と、寄り添う姿勢が、親子の未来を大きく変える、そんな確信がそこにはありました。

  • 「あなたにはできるよ」と伝える理由

    「何もできないと思っている人ほど、本当はすごく頑張って生きてきた人なんです」。
    佐藤さんは、たった一人で妊娠・出産に向き合おうとする女性たちに何度もそう伝えてきました。
    かつて、虐待を受けて育った女性が、親になることに強い不安を抱えて助産院を訪れました。
    「自分には愛された記憶がない。だから、どうやって子どもを愛していいか分からない」。
    そんな言葉を前に、佐藤さんは「大丈夫、あなたならできる」と静かに寄り添い、抱っこや沐浴の仕方から一緒にスタートしていきました。

    やがて女性は無事に出産し、懸命に子育てと向き合うようになっていきました。
    数年後、彼女の子どもが「ママのこと大好き」と笑顔で伝える様子を見たとき、佐藤さんは「本当に泣けてしまった」と話します。
    過去の傷を抱えながらも、母として歩んできたその姿に、支援の意味と力を改めて感じたといいます。

  • 助産師は「生き方」にも寄り添える存在

    助産師の仕事は、妊娠や出産のサポートにとどまりません。
    月経や避妊、不妊、更年期障害など、女性が人生で直面するさまざまな悩みにも寄り添います。
    「“どこに相談していいか分からない”という声が多いからこそ、助産師という存在がもっと身近であってほしい」と佐藤さんは話します。
    思春期の若者から、子育て中の母親、そして高齢女性まで。
    性や生の悩みは年齢を問わず、誰にでも訪れるもの。
    だからこそ、佐藤さんは「話しやすさ」や「安心感」を大切に、地域に根ざした活動を続けています。

  • 「ひとりで抱え込まないで」地域で支える仕組みを

    現在は行政や白河厚生総合病院付属高等看護学院、福島県立医科大学助産別科などとも連携、ひとり親家庭支援等にも力を入れている佐藤さん。
    「妊娠や出産で困っている人がいたら、“かしわ助産院があるよ”って伝えてほしいんです。すぐに全部を解決できなくても、一緒に考えることはできますから」。
    そう力強く語る言葉に、命と暮らしを地域全体で支えていくという覚悟がにじみます。

    すべての人に、安心して「親になること」を選べる社会を。
    佐藤さんの歩みは、助産師という職業を越えて、地域の希望そのものを支えているようでした。

    インタビュー動画はこちら