超高齢化社会を支える訪問看護師、在宅医療の真の寄り添いとは

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一般財団法人 脳神経疾患研究所 在宅看護センター 結の学校 所長
沼崎 美津子さん
Mitsuko Numazaki
Profile
一般財団法人 脳神経疾患研究所
在宅看護センター 所長
福島県福島市にある看護小規模多機能型居宅介護事業所「結の学校」の所長。看護師として豊富な経験を持ち、訪問看護や在宅医療の分野で地域医療の発展に貢献している。2020年度には厚生労働省老健局の「退院後の円滑な介護サービス利用のための介護事業所と医療機関の連携強化事業」委員を務め、医療と介護の連携強化に取り組む。
また、看護師の起業家育成や地域包括ケアの推進にも力を注ぎ、患者やその家族が安心して暮らせる環境づくりを目指している。
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在宅医療の今、訪問看護師の果たす役割がさらに大きくなる時代へ
最近では、超高齢化社会が進み、在宅医療のニーズがどんどん増えてきています。皆さんも感じているかもしれませんが、私たち看護師が患者さんのご自宅に伺う機会が、これからますます増えていくと思います。
特に、医療的ケアが必要なお子さんや高齢者が増えている中で、訪問看護師の役割は本当に重要です。また、国も「地域包括ケアシステム」や「地域共生社会」という仕組みを推進しており、これからは、地域の中で医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する時代になっていきます。
訪問看護師は、子どもから高齢者まで、そして健康管理からターミナルケア(※1)まで、幅広いニーズに応えられるプロフェッショナルとして、その重要性がどんどん高まっているんです。
※1 ターミナルケアとは
ターミナルケア(終末期医療)とは、患者の人生の最終段階において、身体的・心理的苦痛を緩和し、尊厳を持ってその人らしい生き方を支える医療およびケアのことです。治癒を目的とする治療ではなく、痛みや不安の軽減、家族の支援など、患者とその周囲の人々が穏やかな時間を過ごせるよう支援することに重点を置きます。主に在宅医療やホスピス、病院などで提供されます。 -
訪問看護の魅力、人生の最終章に寄り添う看護の本質
訪問看護の魅力は、なんといっても患者さん一人ひとりの「自分らしさ」に寄り添えることだと思います。特に、ターミナルケアの場面では、それが顕著です。
皆さんも「アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、患者さんが自分の価値観や意向を大切にしながら、どのような医療ケアを受けるかを話し合うものです。訪問看護師は、このような場面で患者さんやそのご家族と何度も対話を重ね、課題を一緒に乗り越えながら、患者さんが望むケアを実現するお手伝いをしています。
また、逝去後のエンゼルケア(※2)やグリーフケア(※3)に関しても、訪問看護師だからこそできることがあります。患者さんの生前を知っているからこそ、その方に合った心のこもったケアができるんです。患者さんの人生の最終章に深く関わり、その人らしく生きることに寄り添うことは、訪問看護の大きな魅力だと思います。
※2 エンゼルケアとは
エンゼルケアは、患者さんが亡くなった後に行う逝去後のケアのことです。具体的には、体を清拭(せいしき)し、着替えや整容を行って、ご遺族や周囲の人たちが最後のお別れをできるように準備するケアを指します。エンゼルケアは、亡くなられた方に対して尊厳を持って接することが基本で、亡くなった後もその方が美しく、安らかな姿でお別れできるようにする大切な看護の一部です。また、エンゼルケアを通じて、ご遺族がしっかりと故人と向き合い、心の整理を始めるきっかけにもなると言われています。※3 グリーフケアとは
グリーフケアは、患者さんが亡くなった後、そのご家族や親しい人たちが感じる深い悲しみや喪失感をサポートするケアのことです。喪失感を「グリーフ(悲嘆)」と呼び、看護師や医療スタッフがその悲しみに寄り添い、心のケアを行うことを「グリーフケア」と言います。グリーフケアには、亡くなった直後の精神的なサポートだけでなく、時間が経過しても心の痛みを抱えるご家族への長期的なサポートも含まれます。このケアは、故人との別れを受け入れ、少しずつ新しい生活に適応する手助けをすることが目的です。
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訪問看護の未来、そして新しい看護師たちへのメッセージ
訪問看護は、患者さんの生活に密着しているので、看護師としてのフィジカルアセスメント能力や、患者さんの小さな変化に気づく力がとても重要です。こうしたスキルを磨くには、訪問看護の現場はとても良い場所なんです。
そして、私たちは新卒の看護師さんにも安心して訪問看護の世界に飛び込んでいただけるよう、病院との連携を強めて、技術をしっかりと身に付けられる環境を整えています。また、訪問看護ステーション自体もどんどん拡大していて、教育体制も充実してきています。
これから訪問看護にチャレンジしたいと思っている方々、どうか不安に思わず、一歩を踏み出してみてください。訪問看護の世界には、きっとあなたの看護師としての新たな可能性が広がっているはずです。