栄養面から医療を支える「NST専門療法士」の仕事
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一般財団法人 竹田健康財団 竹田綜合病院 CM部栄養科 科長
遠藤 美織さん
Profile
会津美里町出身。管理栄養士として竹田綜合病院に入職、病棟での処置回診に立ち会い患者さん一人ひとりに合った栄養サポートを行なってきた。現在は病棟、外来、在宅へ配置となっている管理栄養士24名の人材育成や院内NSTの体制づくりに関わっている。
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多職種連携で効果の高い栄養サポートを実践
NST(Nutrition Support Teamの略)と呼ばれる「栄養サポートチーム」は、看護職をはじめ多職種の医療スタッフが協力して、栄養状態が悪い患者さんに対して必要な介入を行う仕組みです。例えば、「食が進まない患者さんがいる」と看護職から連絡を受けた管理栄養士は、患者さんのもとに行って健康状態を観察し、「栄養治療実施計画」を作ってチームで共有し栄養カンファレンスや回診をします。 NST専門療法士は、そのチームの中心となって静脈・経腸・経口栄養などの栄養管理を担います。NST専門療法士の資格は、管理栄養士だけでなく、看護師、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、診療放射線技師が取得することができます。当院は、日本臨床栄養代謝学会認定のNST稼働施設であると同時に、NST専門療法士教育認定施設として積極的に研修を受け入れています。今年度は外部施設から39名(看護師18名、管理栄養士11名、薬剤師9名、理学療法士1名)の研修申し込みがありました。
私自身もNST専門療法士の一人として、適切な栄養サポートを組み合わせることで劇的な回復に向かうケースを何度も目の当たりにしました。また、重篤でICUに入院している患者さんに対して48時間以内に腸から栄養を入れると、感染症のリスクが減ったり、在院日数が少なくなる効果があることがわかってきています。口から食べることができる患者さんの回復力は目覚ましく、栄養の力は本当に絶大だと思っています。
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医療のあらゆる分野に関わる「栄養」
栄養サポートチームで得られたエビデンスを広く発信していくために、当院では積極的に論文の投稿を行なっています。がん治療における栄養管理、IPE(多職種連携教育)、KT(口から食べる)バランスチャート、診療所やクリニックと連携した栄養指導など、その切り口はさまざまです。日本だけでなく、いつかは世界の医療にも役立つ内容を会津から発信できるように日々精進していきます。
学生時代から栄養を学んできた管理栄養士以外の職種の方にとって、「NST専門療法士」の資格取得は分野外の勉強が多くハードルが高いかもしれません。資格がなくてもNSTに加わることはできるのですが、医療のあらゆる分野に「栄養」が関わってくる以上、サブスペシャルティとしての価値が発揮できる資格だと思います。昨年度は福島県の「認定看護師等養成事業」でNST専門療法士養成の補助があったので、当院でも活用しました。NST専門療法士が認定看護師等と同じ枠に取り上げられていたので、認知度が高くなったことを実感しています。
栄養に関する問題を改善していくには、専門的な知識を持ち寄った「栄養の仲間」が必要です。私自身もNST専門療法士の資格を取ることでこれまでの知識に対する裏付けができ、自信になりました。ぜひ、多くの方に「NST専門療法士」を目指していただきたいと思っています。
※令和5年度も認定看護師等養成事業(NST含む)を実施します。詳しくは福島県庁ホームページをご覧ください。
取材者の感想
医食同源という言葉があるように、栄養が生命と深く結びついているのは間違いありません。栄養の力、そして「口から食べることの大切さ」を熱く伝えてくれた遠藤科長の言葉には説得力があり、現場の声を反映することで医療は日々進化していくのだと改めて実感しました。
ライター 齋藤真弓