言動の「理由」を読み解き、地域につなぐ精神看護
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医療法人昨雲会 地域ケア事業部 兼 飯塚病院 精神科認定看護師
湯田 文彦さん
Fumihiko Yuda
Profile
飯塚病院へ看護補助者として就職し、勤労学生として学びながら准看護師免許を取得、その後看護師免許を取得した。
2009年日本精神科看護協会認定の精神科認定看護師(専攻領域:行動制限最小化看護)資格を取得し、精神看護の専門性を深めてきた。
2021年から地域ケア事業部長 兼 飯塚病院総看護部長 兼 医療事業部長。2023年からは精神科認定看護師の会副会長を務め、精神科看護の質向上と人材育成にも力を注いでいる。
現在は、訪問看護ステーションの運営や地域ケア事業全体を統括しながら、医療・福祉・行政との連携を軸に、地域精神医療の充実と支援体制の強化に取り組んでいる。
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精神障がいのある方も、そうでない方も、地域で自分らしく暮らし続けるために。
飯塚病院と地域ケア事業部を拠点に、精神科認定看護師として活動する湯田さんは、医療と地域をつなぐ役割を担いながら、日々現場に立ち続けています。
精神障がいにも対応した地域包括ケアの実践とはどのようなものなのか。湯田さんのこれまでの歩みと、現在の取り組みについてお話をお伺いしました。 -
精神看護の原点は「言動の背景を考えること」
湯田さんが精神看護に関心を持つようになったのは、精神科急性期病棟での勤務がきっかけでした。
当時、患者の言動や行動だけを表面的に捉えるのではなく、「なぜその行動に至ったのか」「その背景には何があるのか」を考える必要性を強く感じたといいます。精神科認定看護師としてのモットーは、「言動には必ず理由がある」ということ。
幻聴や妄想といった症状そのものだけを見るのではなく、その奥にある思いや生活背景を丁寧にアセスメントすることが、適切な関わりにつながると語ります。
試行錯誤を重ねる中で培われたこの視点は、現在の実践の根幹となっています。 -
精神障がいにも対応した地域包括ケアを支える看護
湯田さんは、病院内での看護実践にとどまらず、地域の医療・福祉・介護関係者と連携しながら、顔の見える関係づくりを大切にしてきました。
飯塚病院と地域ケア事業部が一体となって、精神障がいのある方の地域での暮らしを支える体制づくりに取り組んでいます例えば、入退院支援のあり方を見直し、病院と地域ケア事業部の関係者が一緒に話し合う場を設けるなど、連携の「枠組み」そのものを整えてきたといいます。
また、院内研修では、「にも包括(精神障がいにも対応した地域包括ケア)」に関する内容を取り入れ、地域資源を理解した看護が実践できるよう支援しています。「地域の日常生活の中で、医学的な視点を持ってアセスメントできるのは看護職だと思っています」。
担当者会議やケア会議の場でも、医学モデルと生活モデルの両面から意見を伝えることを、スタッフに求めています。 -
現場に根づく実践と、看護師としてのやりがい
患者参画型看護の考え方が現場に浸透し、看護師一人ひとりが対象者の思いや希望を尊重した関わりを実践している様子を見たとき、スタッフの成長とこれまでの取り組みが根づいてきたと実感し、やりがいを感じるといいます。
精神看護は、精神科病棟に限られたものではなく、「すべての人が対象」だと湯田さんは語ります。
悩みや困りごとのない人はいないからこそ、言葉の背景にある思いや価値観を丁寧にくみ取り、共に課題解決に向き合うことが重要だと考えています。 -
地域で暮らし続けるための看護を、次の世代へ
今後は、地域の精神看護力をさらに高め、入院に頼らず地域で生活できる人を一人でも増やしていくことを目標としています。
その先にあるのは、精神障がいにも対応した地域包括ケアの推進と、地域共生社会の実現です。「支援の主役は、あくまでその人自身です。『どうしたいか』『どう生きたいか』を聞くことから、看護は始まります」。
精神看護の経験を、研修や講演、日々の関わりを通じて次世代へ伝えていくことも、湯田さんが大切にしている役割の一つです。一人ひとりの人生に向き合い、地域とともに考え続ける。その姿勢が、これからの地域医療を支える確かな力になっています。